老いていく父親(2)

私が高校3年になる時、父の転勤がまたやって来た。この時はもうたくさんだという気持ちで、同行を拒んだ。
3年前に30数年ぶりに一つ屋根の下で暮らすことになり目の当たりにしたのは、更に悪化した自分勝手な父の姿である。
元々のわがままで自己中心的性格に、認知症(と思うしかない)の初期症状が加わって、より手のつけられない状態だった。「買い物症候群」にはもちろん手を焼いたが、自分の年金の範囲であればやむを得ないとあきらめていた。だが母親の年金や生命保険にまで手を出そうとしていたのにはあきれた。
自分の保険はすべて解約し、預貯金がほとんどゼロの有様で、年金支給日近くになると残金がほとんどなかった。
昨今話題にあるように、定年間近になっている私達の年金はあまり当てにならない額だが、地方公務員で恵まれた時期に退職した父の受給額は、現役世代の働き盛りの年代の給与に引けを取らない。
それが退職以来30数年、延々と受給を続けながら今や預貯金ゼロなのである!! あろうことか難病で苦しむ自分の女房の僅かな年金や、満期が近い生命保険にまで手を出そうとしているのだ。
息子としてこんなに腹立たしく悲しいことはない。
半ば強引に母親の通帳、生命保険証書は回収した。そのことで毎日消耗なやり取りが続いた。銀行や保険会社に平気で電話をかけるのだから本当に疲れた。
さすがに現在は話題に出てこなくなった。あきらめたというより忘れたのだと思うが。